京都アニメーションは2013年に「Free!」をヒットさせましたが、2016年に公開した「聲の形」は、これが講談社の注目作だったことを考慮すると"微妙"な動員数に留まっています。岡田斗司夫氏は聲の形について「あと2割映像が綺麗だったら軌道に乗っていた」と語っています。
それ以外の作品についてはFree!の足元にも及びませんし、「ハルヒ」や「けいおん」「CLANNAD」「らき☆すた」のようなヒット作を生み出せていません。
そして筆者は、2017年から向こう3年間は京アニから"本当のヒット作"が出ることはないだろうと分析します。
ここでいうヒット作は上記で挙げたような、話題性の高いヒット作品のことです。
ではその理由について解説します。
1. 企画力の弱さ
京都アニメーションは2012年までは角川とTBSの元請けをやっていました。
しかし、氷菓を最後に角川とは完全に手を切った形となりました。
角川のような大手企業は多額の出資ができるだけでなく、圧倒的な原作のライブラリーを有し、雑誌等で作品のプロモーションにも力を入れることが可能です。
「氷菓」のようなユニークな作品をアニメ化できたのも、「日常」であれだけ贅沢な作画ができたのも、角川の力があってこそのものです。(角川作品の円盤の値段は高すぎですが・・・)
京都アニメーションはポニーキャニオンやABCアニメーションと手を組んでいるものの、企画自体はほぼ自社で起こしており、どんな作品をアニメ化するのか、アニメ化できるのかという観点からは、不十分な体制だと思われます。
TBSや角川と組んでいた時代の方が明らかに原作力の高い作品のアニメ化を担当していたと言えるでしょう。
下の表は制作作品を時代別にわけたもの。一目瞭然で角川・TBS時代にヒット作が集中しています。
角川・TBS時代(-2012) | 現体制(2012-) |
---|---|
フルメタル・パニックふもっふ MUNTO(例外的に自社製作) CLANNAD(1期・2期) けいおん!(1期・2期・映画) 日常 |
中二病でも恋がしたい!(1期・2期・劇場版) Free! (1期・2期・劇場版) 境界の彼方(TVA・劇場版) 甘城ブリリアントパーク(※例外的にTBSの企画) 響けユーフォニアム(1期・2期) 無彩限のファントムワールド ツルネ |
また、角川やアニプレックスのような企業はアニメ市場の動向にも敏感で、企画の見極めという観点からは京都アニメーション単独よりも遥かに優れていると言えるでしょう。
企画力に優れたアニプレックスと組んでいるA-1 Picturesは「うたプリ」や「ソードアート・オンライン」「アイドルマスター」を始めとしてここ最近、人気作を多く世に送り出しています。また、それぞれの作品を息が長いものに出来ています。
例えば、「まどか☆マギカ」は虚淵玄・蒼樹うめ・シャフト(新房昭之)というコラボレーションをアニプレックスの元で可能にしたからこそ生まれたわけで、そういった"企画"ができる体制でないという事は大きなハンディキャップになります。
2. 人材流出と閉鎖的な制作体制
さきほどFree!の話を出しましたが、Free!を監督した内海紘子氏は2015年段階で既にアニメーションDO(京アニの大阪スタジオ)を退社しています。
Free!がヒットできたのはほとんど彼女の功績だと言えます。
普通のアニメ作品の場合、監督が外部の人間であっても、制作に参加することができます。むしろ外部の人間が監督を務めていることのほうが多いくらいです。
しかし、京都アニメーションの場合、基本的に全ての作品の監督は内部の人間が担当します。
脚本、動画や背景、音響などを除いては、ほとんど自社だけで作ることができるというのが京都アニメーションの特徴であり、強みでもあります。
自社のスタッフだけで監督・演出・作画(原画)という重要な部分を制作できるというのは、各セクションの意思疎通がスムーズになり、スケジュールも管理しやすく、そのため京都アニメーションの作品はある一定の品質を保つことができるわけです。
SHIROBAKOのアニメで描かれたように、制作進行があちらこちらのフリーランスのアニメーターを訪問することをしなくて済むのです。(背景や動画は京アニも外注していますが。)
ただ、メリットばかりではありません。
この制作体制を貫いているため、もはやFree!関連作品を内海紘子氏が担当することが不可能となったわけです。
作品の方向性という意味で明確なビジョンを持つ人間が離脱するというのはあまりにも痛いと言えます。
また、育てた人材が流出したらほぼ戻ってこないわけですが、京都アニメーションはここ数年で優秀なアニメーターを大量に失っています。
進撃の巨人の作画監督である門脇聡氏や、アイマスアニメの監督である高雄統子氏、けいおんやらきすたのキャラクターデザイン・堀口悠紀子氏、長年演出をしてきた坂本一也氏、この他にも大勢の優秀な原画マンや演出家が同社を離れています。
通常、企画的に大きい作品を制作する場合、他社やフリーランスのアニメーターから優秀な人を呼んで制作に参加してもらうということがよく行われます。
Twitterで有名なアニメーターの方が「○○の第△話に参加しました」と投稿されていることがあります。
京都アニメーションがオリジナル作品に弱いのは、京都アニメーションはクリエイターというよりは絵描きという側面が強く、クリエイターとして傑出した発想を持つような人間がいないからだと推測できます。
そしてオリジナル作品及び自社出版作品をヒットさせられない・作れないというのは、製作委員会で出資率の高い京都アニメーションにとっては相当な痛手です。
山田尚子監督について
京都アニメーションの中で圧倒的存在感と才能を発揮している山田尚子氏ですが、後述するリスクテイクに関連して、本当に企画の段階から彼女が作りたいと望んだものは作らせてもらえないと思います。
また、本当のヒット作を作れるのかと言われると、先述の企画力の関係で難しいと思います。
飼い殺しにされるのであれば、京都アニメーションを離れたほうがのびのびやれそうな感じもしますし、おそらく既に引く手は数多なのではないでしょうか。
社外の人間の意見も不足
かつて、「けいおん!」をTBSのプロデューサーらが京都アニメーションに紹介した際、京都アニメーションは楽器の作画が大変だという事と、これをアニメ化して面白いのか疑問に思い、断ろうとしたようです。
しかし、説得した結果、けいおんはアニメ化された大ヒットしました。
また、角川の伊藤敦プロデューサーはハルヒやらき☆すた、氷菓、フルメタル・パニックなどの作品に携わり、一部の作品では自身も脚本に参加したり、背景描写に力を入れるよう指示するなどしました。
2013年頃からは、京都アニメーション作品において、社外の人間でアニメ制作にしっかりと口を出せる人間が現在はほとんどいなくなっており、外部の意見というものが不足していると思われます。
外から出資をする立場からすれば、「これではヒットできないだろう」というモノを作られたらたまったもんじゃありませんから、第三者の目として出版社のプロデューサーらがしっかりと口を出す事で企画・脚本段階から方向性を間違わないようにできるわけです。
ちなみに、聲の形は講談社がしっかりとチェックを入れていたようです。
3. IPを軽視している
特にKAエスマ文庫作品に言えることですが、原作を尊重せずにプロットを書き換えるということをよくやっているのと、そもそも原作小説に魅力があるのかわからないものを無理矢理アニメ化していて、その上でシナリオの改変も行い、五里霧中に迷っているような事が多々見られます。
原作を改変していいのは、100%原作よりも面白くなる確信がある時だけであり、そうでなければ改変すべきではないのは素人でもわかる事です。
結局、そんな手探り状態で作ったものが良い物になることなどありえないのですが、たった一つ、Free!では原作のコンセプトだけ借りて、内海紘子氏が自分のやりたいようにやった事で上手くいったのですが、そんな内海氏は同社を去ったわけです。
京都アニメーションは、KAエスマの作品なら原作出版社が自社なので、版権ビジネスをする上でかなり有利なのですが、KAエスマ作品のアニメ化が軽率に行われているという問題点があります。
こういった点も企画力の無さに関連していると言えるでしょう。
自分達で出版をしているのに原作のプロットを尊重しないというのは本当に出版の部門を成長させたいのか甚だ疑問です。
ちなみに、ハルヒやKey3部作、けいおんの頃は、原作を改変しつつもリスペクトが感じられる改変の仕方をしていたように思えます。
※IP=知的財産の事
4. 出資率が高いためリスクテイクができない
京都アニメーションの特殊な事情として、13年以降の各作品は全て高い出資をしているということです。通常、製作委員会方式のアニメにおいて、出資率が一番高いのがアニメ制作会社ということは滅多にありません。
京都アニメーションは近年の多くの作品で最も出資率の高い"幹事会社"になっています。
これにより、利益分配だけでなく、製作委員会の言いなりにならずに済むというメリットがあるわけですが、何が当たるかわからない映像業界ですから、多額の投資をするというのは当然リスクも高くなります。
失敗した時の損失が大きいため、日常や氷菓のようなリソースを贅沢に使った作品の企画は通りづらいはずです。
アニメの制作費というのは実質的には製作期間であり、今後の京都アニメーションは、だいたい1年くらいで作れる1クール作品を年に多くて2本、映画の場合は2年くらいの製作期間をかけたものを1本、TVアニメの総集編映画を数本というコンサバな感じになると思われます。
映像のクオリティがずば抜けて高いわけではない
全ての項目に関連しますが、2016年、2017年という時代では、京都アニメーションの商業作品の映像品質はずば抜けて高いとは言えません。
ガイナックスの元社長で評論家の岡田斗司夫氏は「聲の形」について映像的な美しさが足りないと指摘しました。
10年前、ハルヒやKanonの頃は確かに同時期の深夜アニメと比べると明らかに高いクオリティで映像制作が行われていました。
しかし、ufotableやWIT STUDIO(プロダクションIG)、A-1 Pictures、ボンズ、動画工房などは映像のクオリティで今や京都アニメーションを凌駕する事も多く、昨今3DCGを使ったアニメーションも浸透してきている中で、京都アニメーションならではの魅力は少なくなったように感じられます。
また、単純な作画だけでなく、シナリオ、キャラクターデザインや色彩設計という面でも現在のトレンドに合わせられていない印象もあります。
結論
なぜ「向こう3年」としたかというと、このくらいの期間同じことを続けて成功しないと、方針を改めると予想されるからです。
だらだらと書き連ねましたが、外部から優れた人材を呼べない体制であるのと、企画力に乏しいというのが大きな理由です。
もしこの2つに変革が起これば話は変わってくるかもしれません。
大きな変革がなければ、彼らは凋落の一途を辿る事になるでしょう。
あるいは、再び元請けに戻るという選択をすれば、また日の目を見ることもあるかもしれません。